semi2004-03-02

もうひとりの天使― ノスタルジアと蒐集をめぐる48の省察 四方田犬彦 ISBN:430971062X 河出書房新社 1988/02

著者の「中沢新一チベット
モーツァルト』は、胡散臭いから
面白い」という説明は、嫌味では
全くない。しかし

騙りの魅惑を読者に予め告げ
知らせておくために
カルロス・カスタネダ「ドン・
ファンの教え」について冒頭で触れ、
書物全体の嘘言志向について自己
言及的な傍註を加えている

とある部分は、私はカスタネダ
ヒッピーの聖典とされている事しか
知らなかったので、四方田犬彦が言う
ドン・ファンが実は架空の人物で
あり、カスタネダの思想を
効率よく物語るための方便にすぎな
かったことは完全に照明されている」
と指しているのは、「どこらへんから
知られていったのか」説明が欲しかった。
彼にとっては、教養として知っていて
当然レベルなんだろうけれど。

彼岸の真理を特権的に垣間見た
稀有の人として祖国に帰り、日本の
現実を虚偽として批難する視座を
手に入れた。帰還者の言説が宿命的に
携えてしまう胡散臭さを体系的に
隠蔽する事で藤原新也は凡庸な
オピニオン・リーダーたろうとしている

と藤原を取りあげている様は、少し
悪意(?)を持って読めば
「四方田は『俺は解っているよ』と
言いたい為に」それらしい事を
言いながらも、その「解っているよ」
部分への言及を避けているようにも読める。
戸川純を語る為に
カルメン・マキと比較する頁など、
自分にとって解っている対象を出す
ことで、後発は大したことがない、と
誰でも言えそうな内容に読めるように
書くのは、どうなんだろう。
高橋悠治
東京混声合唱団の委嘱を受けて
作曲し、如月小春が作詞を
担当した「ただいま練習中」が
初演されたエピソードは興味深いので
もっと紙片を割いて欲しかった。
ビゼーの「カルメン」は、そんなに
色んな表情を持つのだろうか?四方田は
ビゼーの原曲は、十九世紀音楽の
全体性の換喩と化してしまった
趣がある」と記しているけれど・・・・・・。