ある日突然、私には11、2歳の弟がいる、と告げられる

5年生か6年生かは、忘れた。
かなり驚くが、何故今まで隠されていたのか、や
父と母、どちらからソレを聞いたのか?は、すぐに頭から離れた。
「今から20分後には、○○病院に彼を迎えに行って。
彼は精神病を患っていて、入院していたのが退院することになったから」と言われ、
子どもで入院するくらい心を患ったなら、かなり繊細なんだろうし、
迎えに行く大人(この場合私)にも、それなりの心構えが必要
(大人で心を患った場合と違うんじゃないかと・・。実際はどうなのか知らない)
なのに、こんな直前じゃ、何の準備もできないまま、迎えていいのか?と
疑問で頭がいっぱいになったから。
担当医からの話は、明日聞くとして・・家族向けの本は夜にでも
買いに行こうか、医学書が充実している本屋は
○○以外、何所にあるんやろ、とか思っているうちに病院に到着。
30階以上ありそうな大病院で、一般人には入れないスペースもあり、
実質17階までしか上がれないらしい。
銀色のエレベーターと、半透明なエレベーターのうち、
私は後者に乗って上がり、病院内にはエスカレーターも
多く設置されてるんだな・・と、その広さを眺めていた。
17階に、と言われていた通りに行くと、
走って飛びついてきた少年がいて、その子が弟だと解った。
迎えに来たのが私だけで、養父母の姿が見えないことが不愉快らしい。
顔をうずめるような形で私にしがみついてきて、怒りを
表した言葉をたくさん言っている口調&声は子どもらしいんだけど、
「自分が文句を言っている顔」は人に見られたくない、という風に見えた。
少し落ち着いてきたようになってきて、発したのは
「僕、ボーっとする、っていう意味が解らない。それ、どんな行動?」。
弟が疲れているようには見えなかったので、エスカレーターが
見える場所に連れて行く。
「こっちからも、あっちからも、エスカレーターが来ているねぇ」
「・・・」
エスカレーターの淵、光ってるね」
「・・うん」
あっちから夕陽が照ってきて、銀色のエレベーターにも
光が当たっていて・・眩しい?」
「ううん、大丈夫」
「エレベーターに反射した光が、更に反射して、
エスカレーターが光ってる。・・いや、光っているのは、
太陽のせいかな?」
「・・うーん・・多分、あれはエレベーターに当たったのが
エスカレーターにも当たったんだと思う」
「あっちの窓も大きいね。これから夜になってくのに、
こんなに眩しかったら、全然そんな感じせーへんわ」
「うん・・」
「でも、太陽が傾いていってるから、あそこの
エスカレーターの光り方が、変わっていっているように見えへん?」
「え?何所何所??」
「あれあれ」(と、指差す)
「あ・・」
上から見下ろしたエスカレーターの淵は、夕陽に反射して光り、
それが時間と共に、眩しい場所が移動していき、
私達のいる場所から見ると、まるで海の小波のようにも見えた。
  10分間くらい、そうしていただろうか。
黙ってエスカレーターを見詰めていた弟が動いた。
「あ・・もう、眩しくない」。
外は暗くはなってないけど、先ほどのようには、もう光ってはいなかった。
「あそこやない場所からやったら、あんなに光って見えたかな?」
「ん・・無理ちゃうか」
「キラキラしてたねぇ」
「うん」(と、光が波のようだった、と弟が手を波のように動かした)
「キレーやったなぁ・・」
「・・」(思い出すような表情をしている弟)
「キレーやなぁ、って、あんな風に見ている時間を、
『ボーっとしている』って言うんちゃうかな」
「・・・ん・・」。
どうやら、納得したようだ。そのまま帰途に。
が、家に着く前に、ふと
「あの十分間に、全く声をかけなかったのはイイと思うんだけど、
『ボーっとしているって言うんちゃうかな』って、
同意を求めるように言ったのは、応えを急かすようで、
アカンかったかもなぁ」と気になりだした。
ら、目が覚めた。