図書90年9月号〜91年9月号に掲載されていた

semi2008-04-09

現代犯罪図鑑 〈物語の誕生〉シリーズ 別役実玖保キリコ 1992.1 岩波書店 ISBN:400004155X

取り上げられている、どの事例も
(バラバラ殺人とブルーフィルムのまた貸しじゃ、陰惨さは違うけど)
考察と玖保キリコの絵によって、奇妙な読後感が生まれている。
一番気になったのは、
自殺を決意した被告人が、散々心配をかけた母親を
道連れにしようとバットで頭部殴打し、死んだと思って隣室に行くも、
痛苦している姿を見て驚愕、殺害行為を続行できなかった事件。
未遂犯と中止犯についての説明のあと、
被告人は彼自身に未分化に所属する母親に、殺意を抱いてバットをふるった、
のが
うめき声で呼ばれて駆けつけた被告人が出合ったのは、彼自身に
未分化に所属する母親ではなく、第三者としての母親。
従って、この種の事を、良心の覚醒によって説明するのは間違いである、という部分。

この場合に彼等の行為を阻止したのは、その種の
心理的障トクではなく、もっと致命的な「関係」における
力学的障トクとしか思われないからである。
こうした力学的障トクを抽出し、心理的障トクに置き換えて
「同情」とか「憐憫」とか、それによる「良心の覚醒」とかいう
名を与えたのは、後の教育によるものであろう。
「関係」には常に力学的な「死角」があり、窮鳥は猟師の、
「母親」は被告人の、それぞれ「死角」に入りこんだのである

春日武彦と対談して欲しいなぁ。